噴火対策には何を準備すればいいの?


目次


日本は111の活火山を有する火山大国で、代表的な富士山も数多く噴火していたことがわかっています。

21世紀以降、日本国内の活火山は異常すぎるほど静かであり、その分、大規模の噴火があるのではないかと懸念する声もあります。

噴火

活火山の近くに住む方の対策

火山ハザードマップを参考にして防災プランを立てる

火山ハザードマップとは、火山災害の恐れがある範囲を地図上でわかりやすく説明したもので、住民と観光客向けのものは、活火山近くの自治体が配布しています。
日本国内にある活火山それぞれの特性やデータ基づいて、火山防災協議会が様々にシミュレーションをし、防災計画を練って作成したものです。

火山ハザードマップデータベース

まずは、お住まいの地域が災害の範囲に該当するか確認し、防災プランを考えてみてください。

ここで代表的な富士山を例に取り上げます。 富士山ハザードマップ

富士山火山防災対策協議会「ハザード統合マップ」

富士山防災マップ
富士山防災マップ

神奈川県富士山火山防災マップ

噴火災害は、火山ごとに傾向があり、過去のデータを分析することで、今後起きる噴火災害がある程度想定できます。(もちろん例外もあります。)

火口は必ずしも頂上であるとは限らず、山腹であることもありますが、噴火の前から火口を正確に特定することは簡単なことではありません。
火口となる可能性がある範囲のいずれかの地点から、溶岩が流れた場合はどうなるか、火山灰や火山れきがどこへ降り積もるか、火砕流がどの方向に流れるかなど、あらゆる条件でシミュレーションがなされ、地図上に色分けして表示されています。

一般向け、観光者向けの火山ハザードマップには、避難ルートも掲載されています。
これらの情報をもとに、防災プランを立てるとよいでしょう。


「噴火警報」・「噴火警戒レベル」をチェックする

実際に噴火が起きそうになった時、噴火が始まってから避難すべきか、噴火が始まる前に早くから避難すべきか、それとも自宅待機すべきか、判断の基準となるのが気象庁や自治体の発表です。

全国111の活火山のうち、主要な50の活火山を気象庁が24時間体制で監視・観測しています。
そして、噴火の可能性が高まると「噴火警報」が出されることになっています。 噴火警戒レベル

気象庁 リーフレット「噴火警報と噴火警戒レベル」より
噴火警戒レベルは、警戒が必要な範囲と、必要な防災行動を5段階で表したものです。
2014年の御嶽山での災害の教訓から、「レベル1」であっても「活火山であることに留意」となっています。
また、噴火前に被害範囲を特定することが難しいことから「レベル1」からいきなり「レベル3」や「レベル5」に移行することもあります。

実際に噴火が始まりそうになったら、気象庁や自治体からの情報を参考にして、自分がいる場所にも災害が及ぶのか、今は避難すべき時なのか、どこへ避難すべきか等を確認してください。


活火山から離れていても被害が!活火山から遠くに住む方の対策

火山から遠い場所に住んでいる人でも、大規模な噴火があった時はかなり広い範囲で火山灰が降り注ぎます。

代表的な例として、江戸時代に実際に起きた富士山の宝永噴火では、神奈川県の広い範囲で10センチ以上、東京都心でも2センチ以上の火山灰が降り積もりました。

これは現在の富士山の降灰の可能性マップです。 降灰可能性マップ

富士山火山防災協議会より

風向きや規模など様々な条件を考慮して作成されているため、色のついたエリア全てに降り積もるわけではありませんが、富士山の東側の地域、つまり首都圏に火山灰の被害が起きると予想されます。

もし江戸時代と同じ規模の富士山の噴火が起きて、首都圏に当時と同じ量の火山灰が降り積もった場合、昔にはなかった交通機関やライフライン、経済活動に大きな支障をもたらすことが予想されています。

世界の火山噴火でも、首都にこれだけの量の火山灰が降った例はありません。
また、鹿児島県にある桜島では住民と火山灰と共存していますが、江戸時代の富士山噴火とは規模が全く違います。

灰が積もる量によってどのようなことが予想されるでしょうか。

0.5cm 自動車の運転:視界が悪くなり、車がスリップしやすい。
電車や飛行機が運行できない可能性がある。
気管支の弱い人は、灰を吸い込まないよう注意が必要。
2cm 一般の人でも目・鼻・のどなどの健康被害が起きる可能性がある。
10cm 雨が降ると地域によっては土石流が発生しやすくなる。
30cm 雨が降ると水を含んだ火山灰の重さで、木造家屋が倒壊するおそれ。
50cm 火山灰の重さだけで木造家屋が倒壊するおそれ。
100cm 森林の壊滅的被害。住宅などの破壊の可能性。

火山灰ってただの灰じゃないの?

人体に悪影響をもたらし、日常生活がストップします

火山灰の人体への影響

見た目は雪のようにきれいに見えることもありますが、人体に様々な健康被害をもたらします。

結膜炎・角膜剥離

火山灰は鋭くとがっているので、目に入ると非常に痛く、こすると結膜炎や角膜剥離を起こします。

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呼吸器系への悪影響

火山灰を吸い込むと気管や肺が傷つけられ、幼児や高齢者の方は呼吸器系の病気になる可能性があります。
1cmほどの降灰でも、もともとぜんそくなど持病がある方も注意が必要です。
2cm以上の降灰になれば、健康な人でも呼吸器に障害が出てきます。
実際に噴火のあった周辺地域で喘息の患者が増えたり、呼吸困難を感じる人が増加したという記録があります。(雲仙普賢岳や伊豆大島等)

まれに、細かい火山灰を長期間吸うことで、深刻な灰の病気になってしまうケースもあります。

皮膚への影響

火山灰が肌に付くとベタベタします。
髪の毛に付着した火山灰も取るのが大変です。
火山灰に火山ガスが付着している場合には皮膚炎を起こすことがあり、皮膚の弱い方は肌を露出させない等の注意が必要です。

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火山灰の日常生活への影響

火山灰は人体への悪影響の他、日常生活に様々な支障をもたらします。

建造物への被害

火山灰が屋根に積もると家屋を潰すことがあります。
火山灰が積もっているところに雨が降ると、火山灰が水を含んでさらに重くなります。
フィリピンのピナツボ火山では、火口から40キロメートル離れた地点まで10センチ以上の灰が屋根に積もり、さらに台風が来たため、雨水を含んで重くなった火山灰が多くの家屋を潰し、たくさんの犠牲者を出しました。
噴火の後は上昇気流が発生しやすいため、台風が来なくても雨が降りやすいと言われています。

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農作物への被害

灰が大量に降ることで農作物が大きな被害を受けます。
農作物に灰が付着することで商品価値が下がってしまい、洗って火山灰を落としたとしても膨大な作業量になることが考えられます。
また、火山灰の成分が酸性が強い場合、農作物が枯れてしまいます。
また、日光遮断により光合成ができなくなります。その結果、農作物の価格高騰をもたらすと予測されます。

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電子機器やコンピュータの被害

火山灰が電子機器やコンピュータの吸気口から吸い込まれると、静電気によって内部に付着します。
その結果、誤作動や故障を招きます。実際の例では、降灰の多い桜島で公衆電話が故障したり、JRの分岐器(ポイント)が正しく作動せず電車の運転ができなくなりました。
それ以外にもデジタルカメラ・携帯電話・ガス湯沸かし器・エアコン・自動販売機等、外気にさらされるコンピュータ系は故障する可能性が高いと言えます。

写真:桜島の公衆電話。ボックスの中でも灰が入り込んでいる。

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飛行機の運行停止

国際的な取り決めで、微量な降灰であったとしても飛行してはいけないことになっています。
理由としては、火山灰がエンジンに吸い込まれると、エンジンの燃焼室が非常に高温なため火山灰が融けて排出口を塞いでしまうからです。過去にインドネシア上空で飛行中にエンジンが止まり墜落寸前になったことがあります。飛行場の滑走路に降灰があっても飛行不可になります。除灰作業は人海戦術なので時間がかかり、長期的に旅客と物流に大きな被害をもたらします。

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電車・新幹線の運行停止

微量の降灰でも電車や新幹線の運行が停止する可能性があります。
レールに灰が積もるとスリップしやすいほか、視界不良で運転手が信号が目視できないなど、安全が確保できない状況では運行ができません。
それ以外にも、レールに灰が積もると電力供給が止まったり、信号システムや電車の位置把握のための電子機器系統が故障してしまうことが考えられます。

車への影響

降灰があると、前の車が灰を巻き上げて視界不良になるほか、非常にスリップしやすくなります。
雨が降った場合は少し濡れるだけでも泥流のように空転するのでスリップ事故を起こす例が多くあります。
高速道路では一般車両は通行止めになる可能性が高いでしょう。
一般道路も渋滞や速度制限になる可能性があります。火山灰は水に溶けないため、除雪作業車を使用することができず人海戦術で除去するしかないため、復旧に時間を要します。
この結果、長期的に物流に大きな影響を与えると考えられます。
車両自体にも被害をもたらします。火山灰がエンジンフィルターを詰まらせたり、ワイパーを使うとフロントガラスが傷ついてしまいます。
オイル・オイルフィルター・エアフィルターは頻繁に交換する必要があります。
避難の途中に車が故障して立ち往生になる可能性もあります。桜島には火山灰仕様の車も販売されているほどです。

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上下水道

火山灰で上水道が汚染される可能性があります。
桜島では貯水池にフッ素を含有する火山灰が流入したため浄水場が停止するということがありました。
取水方法が湧水、地下水汲上揚水、河川取水のいずれかによって状況は異なりますが、火山灰の混入だけではなく、火山周辺の地下水脈の変動が原因となって上水道に影響が出るかもしれません。

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さらに下水道が使用不能になる恐れもあります。
火山灰の見た目は雪のようですが、水に溶けてくれず、むしろ固まってしまうので排水溝が詰まってしまうのです。
一般市民の理解が足りないと、火山灰の除去に大量の水を使い、広範囲で排水溝が詰まってしまうかもしれません。

写真:桜島の克灰袋。住民の灰の処理は袋に詰めて自治体が回収するようになっている。

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電気

火山灰が原因で停電することもあります。
送電線の碍子に濡れた火山灰が付着すると絶縁不良で停電してしまいます。
過去に桜島でも停電した例があります。
火山灰だけではなく、噴火による土石流などで停電することもあります。
人為的に計画停電が必要になる場合もあります。

小売店への影響

生活必需品を提供するスーパー・コンビニ等の小売店が降灰の影響によって営業できなくなる可能性があります。
一つは交通・物流機能が麻痺して、商品の生産や流通が難しくなり、商品不足になるという問題があります。
東日本大震災時にも食品棚から商品がほとんどなくなる事態がありました。
もう一つは食品や商品を保持するための冷蔵庫・空調等など外気吸入する機械が壊れて販売できなくなるという問題があります。

医療活動への影響

交通機関が麻痺すると、医療機関も医薬品や食料が不足します。また救急車・ヘリコプター等で患者輸送も降灰がひどい地域では難しくなるでしょう。


噴火用の防災グッズ

それでは、噴火災害にはどのような防災グッズが必要でしょうか。
地震と違って噴火災害の種類は溶岩流、土石流、降灰など様々で、災害期間が長引くこともあります。

そのため「逃げる準備」と「こもる準備」の2種類の用意が必要です。

逃げる準備

こもる準備

逃げる準備のグッズに加えて

  • 水・食料の備蓄(最低3日、できれば1週間)
  • カセットコンロ
  • 非常用トイレ
  • 除灰用スコップ
  • 停電した場合でも生活できる対策

富士山火山防災対策協議会
アメリカ合衆国内務省・アメリカ地質調査所
アメリカ地質調査所 Volcanic ash
内閣府「火山灰から身を守るための対策」
国際火山災害健康リスク評価ネットワーク製作パンフレット「GUIDELINES ON PREPAREDNESS BEFORE, DURING AND AFTER AN ASHFALL」
産業技術総合研究所 つくば中央第七事業所 宮城磯治「火山灰への備え」
防災科学技術研究所製作・パンフレット「火山灰から身を守ろう」
筑波大学大学院システム情報工学研究科・都市防災研究室,鉄道建設・運輸施設整備支援機構製作・パンフレット「火山灰被害を軽減するために」

小山真人著「富士山噴火とハザードマップ-宝永噴火の16日間」
伊藤和明著「地震と噴火の日本史」
神沼克伊・小山悦郎著「日本の火山を科学する-日本列島津々浦々、あなたの身近にある108の活火山とは?」
鎌田浩毅著「火山噴火ー予知と減災を考える」
鎌田浩毅著「地震と火山の日本を生き延びる知恵」
鎌田浩毅・高世えり子著「もし富士山が噴火したら」
富士山火山防災協議会「富士山火山防災マップ」
鎌田浩毅著「富士山噴火-ハザードマップで読み解くXデー」
関谷直也・廣井脩 「富士山噴火の社会的影響:火山灰被害の影響についての企業・行政調査
木村政明「富士山大噴火!不気味な5つの兆候」
木村政明・山村武彦著「富士山の噴火は始まっている!」
藤井敏嗣著「正しく恐れよ!富士山大噴火」