噴火対策その3 建物、車、精密機器、農作物の対策

建物の対策

噴火に伴う現象は建物にも影響します。

火山灰の重みによる建物の倒壊対策

火山灰が1cm積もると、1平方メートルあたり10kgほどになります。そこに雨が降るとさらに重みが増し、倍の20kgになります。火山灰は雪と違い、溶けることはありません。その上、雨が降ると硬化し、取り除くことも困難になります。300年前の富士山噴火(宝永噴火)と同じ規模の火山灰が降った場合、50cm近く火山灰が積もった木造家屋の半数が倒壊すると言われています。

屋根から火山灰を除去する作業は雪下ろしと似ていますが、火山灰の問題は、除去作業中の飛散によって人体に被害が及ぶこと、屋根から下ろした後の火山灰も放置せず処理する必要があることです。倒壊の恐れの少ない建物であっても、屋根に火山灰積もっていれば、風が吹くたびに火山灰が飛び、人体や屋内へ被害を及ぼします。また、太陽光パネルを設置している場合は、火山灰によって発電効果が低下します。

このように、建物の火山灰の対策は必須です。倒壊の恐れがある建物で、補強が可能な場合は専門業者に問い合わせて対策しておきましょう。また、屋根の火山灰降ろしには、火山灰対策のマスク、ゴーグルを必ず着けます。屋根に登って作業する場合は、転落事故を防ぐために、必ず安全帯や命綱、アンカー、ヘルメット等を使いましょう。雪下ろし作業用具でも代用可能です。屋根の上での作業は危険を伴うため、可能なら専門業者への相談をお勧めします。

火山灰が屋内に入り込まないようにする対策

火山灰降下時には、窓の隙間や、換気扇・換気口を通じて屋内に火山灰が入り込む可能性があります。火山灰降下の激しい時期は、窓を目張りしておきましょう。また、換気扇・換気口にフィルターをつけて、火山灰の入り込みを防ぎましょう。

  • 換気扇・換気口フィルター

空振から窓を守る対策

噴火時には空振と呼ばれる、強い空気振動が発生します。空振の発生時には火山に面した窓が揺れるだけでなく、衝撃で割れることもあります。火山に近い場所に位置する建物で、火山の見える窓側は空振対策を施しましょう。

  • 窓の対策用品

火山灰が引き起こす泥流、融雪泥流の対策

火山灰の大量降下後に大雨が降ると、泥流や融雪泥流が発生する可能性があります。ハザードマップを確認し、泥流等の恐れがある圏内にお住まいの場合、噴火発生時には気象庁や自治体の発信に気をつけつつ、いざという時はすぐに避難できるように準備しておきましょう。

車の火山灰対策

火山灰上で車の走行は危険

火山灰の積もった道路は滑りやすく、運転には注意が必要です。2022年に山梨県富士山科学研究所や防災科学技術研究所が行った走行実験では、二輪駆動車は深さ10cmを超える火山灰では走れなくなる車種が増えました。実験ではタイヤにチェーンをつけても効果がなく、逆に早く灰にタイヤが埋まるケースも見られました。制動試験では灰が1cm積もると、止まるまでの距離が3倍近くに延びました。カーブを走る旋回試験では、灰が1mmと薄い積もり方でも、時速40km以上出すとカーブを曲がりきれずに滑ってコースからはみ出す結果が見られました。

このように、火山灰が薄く積もった道路であってもスリップの危険があり、深く積もると車両が動かなくなることもあります。個人としての被害を防ぐのみならず、緊急車両等の通行を確保する点でも、安易な走行は謹まなければなりません。火山灰降下時ならびに除去前は極力運転を避け、運転が必要な際にも安全に注意し、公的機関の案内にしたがって行動しましょう。

窓や車体についた火山灰の除去

火山灰は小さなガラス片のため、ワイパーや布で拭くと窓やボディに傷をつけます。雨に濡れても火山灰は流れ落ちず、固まることもあるため、車の掃除には注意が必要です。

まず、火山灰は空気で吹き飛ばすか、水で流して落としましょう。

空気で吹き飛ばす場合はブロワーやエアーコンプレッサを使います。作業時には火山灰が目や喉に入らないよう、必ずマスクやゴーグルを着けて行ってください。ブロワーやエアコンプレッサーがあると、車内の火山灰除去や、洗車後の水滴を吹き飛ばすことにも使えて便利です。

水で流し落とす場合は、ホースのほか、高圧洗浄機を使うとベストです。ボディにこびりついた落ちにくい火山灰も洗い流すことができます。

可能なら、ブロワーやエアーコンプレッサを使って空気で灰を飛ばした後、高圧洗浄機で水洗いするとベストです。ボディや窓だけでなく、ホイールの火山灰も落としましょう。

それから、カーシャンプーとスポンジで、優しく洗車します。スポンジは柔らかいものを使いましょう。

最後にファイバークロス等を使って吹き上げて完了です。

出先で充分な用意がない場合は、緊急対応として、はたきやハンディモップを使ってフロントガラスの火山灰を落としましょう。火山灰を落とさずにワイパーや布拭きを行うと傷がつくので注意してください。

地域によっては火山灰に対応したコーティングを行うサービスもあります。

  • ブロワー
  • エアーコンプレッサー
  • 高圧洗浄機
  • はたき

エンジンルーム

火山灰はエンジンルーム内にも侵入します。エアクリーナーやオイルなどのフィルターが一気に汚れるため、新しいものに交換しておくことをお勧めします。

非常用グッズ

車で移動中に噴火が起こり、すぐに帰宅することができなかった場合、低速で長時間運転したり、降灰がおさまるまで車内に待機する場合も考えられます。車内には非常用グッズを常備しておきましょう。具体的にはマスク、ゴーグル、非常用トイレ、非常食類、防寒具などです。

精密機器やコンピュータ類の対策

火山灰の細かな粒子が電子機器やコンピュータ内部に入り込むと、静電気によって吸着し、誤作動や機能停止になる可能性があります。1991年雲仙普賢岳では機器を制御するコンピュータが火山灰によって止まり、火山の観測が困難となる事態が起きました。現代ではインフラや交通網、金融などあらゆるものが電子機器で制御されているため、火山灰は社会の大敵と言えます。ビルや建物のドア、窓、吸気口からの火山灰の侵入を防ぎましょう。可能なら電子機器をラップフィルムで巻く対策も検討してください。

  • 業務用 ラップフィルム

農作物の対策

火山灰は農作物にも被害を与えます。2018年3月の新燃岳の噴火では、火山灰降下によって野菜や原木シイタケ農家が大きな痛手を受けた事例もあります。灰が野菜の葉の間などにたまると出荷できない場合もあります。灰を洗い落とせば出荷が可能な農作物でも、除去作業は大きな負担になり、生産効率の著しい低下となります。また、農作物のみならず、ハウスが火山灰に覆われて光量が不足したり、農機の故障を引き起こしたりします。農作物の火山灰対策は必須と言えます。

農作物の対策として、可能なら事前に被覆資材などを用いて直接火山灰が付着する事を防げる栽培方法を検討します。火山灰付着後は、ブロワーによる送風や高圧散水で灰を落とします。作業時には火山灰が目や喉体につかないよう、マスク、ゴーグル、長袖、長ズボンをつけて行ってください。農作物も農機具も、灰が付着したままにせず、迅速に除去するように努めましょう。

お住まいの都道府県や自治体が農作物の火山灰による被害対策を支援している場合があるので、事前の相談をお勧めいたします。火山灰除去後の農作物の出荷については、自治体や関連団体へお問い合わせください。

 

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