登山中に噴火が起きたら——その場で何をするか、下山してから何をするか

先に結論:覚えることは3つだけ

  1. 登る前に、気象庁の「火山登山者向けの情報」を1回見る。登山届を出す
  2. 噴火の瞬間は、山小屋・岩陰など屋根や遮蔽物のある場所へ。ヘルメットとゴーグルを着け、口を覆い、噴火が収まったら直ちに下山する
  3. 灰が降ったら、ゴーグルと防塵マスク。下山後は、交通が止まっている前提で動く

場面ごとの流れは次のとおりです。根拠と装備の詳細は各章で説明します。

場面 まずやること 詳しくは
登る前 噴火警戒レベルを確認し、登山届を出す 1章
噴火の瞬間 屋根・遮蔽物のある場所へ。頭・目・口を守る 2章
灰が降ってきたら ゴーグルと防塵マスク。肌を出さない 3章
噴火が収まったら 直ちに下山する 2章
下山してから 交通は止まっている前提で確認。灰は屋外で落とす 4章
ふだんの準備 装備リストを確認してザックに入れる 5章

はじめに:噴火には「考える時間」がない

登山口で「この山は活火山です」と書かれた看板を見たことがあるでしょうか。

日本には常時観測されている火山が数多くあり、その多くが登山コースを持っています。噴火の確率は低いものの、起きたときに考える時間はありません。その場でどう動くかを、登る前に一度だけ頭に入れておく——それだけで結果は変わります。

これは仮定の話ではありません。2014年9月27日、御嶽山(長野県・岐阜県)では、登山者の多い土曜の昼どきに水蒸気噴火が発生しました。噴火当時、噴火警戒レベルは平常時と同じレベル1でした。内閣府防災の資料によると、死者58人・行方不明者5人という被害が出ています(出典:内閣府防災「特集① 火山防災を考える ~2014年御嶽山噴火から10年~」2026-08-17確認)。

この噴火を教訓に活動火山対策特別措置法が改正され、登山者にも自らの身を守る備えをする努力義務が定められました(出典:内閣府「火山への登山のそなえ」)。つまり「噴火への備えは登る人自身の仕事」というのが、いまの国の考え方です。この記事は、公的機関が示している内容をもとに、その備えを「その場でやること」「下山してからやること」「登る前に持つべきもの」の3つに分けて整理したものです。


1. 登る前:噴火警戒レベルを1回見て、登山届を出す

この章の要点:出発前に見るのは気象庁の火山登山者向け情報の1か所だけ。ただし「レベルが低い=安全」ではないので、装備は持つ。あわせて登山届を出す。

噴火警戒レベルとは何か

噴火警戒レベルは、気象庁が火山ごとに出している指標です。気象庁は次のように説明しています。

「噴火警戒レベルとは、火山活動の状況に応じて、『警戒が必要な範囲』と防災機関や住民等の『とるべき防災対応』を、5段階に区分して発表する指標」

——気象庁「噴火警戒レベルとは」(2026-08-17再確認)

内閣府の資料では、レベルの区分に「避難」「高齢者等避難」「入山規制」「火山周辺規制」「活火山であることに留意」というキーワードが付くと説明されています(出典:内閣府「火山への登山のそなえ」)。「入山規制」の語が入っているとおり、このレベルは登れるかどうかの判断に直結する情報です。

登山の前に見るのは1か所だけで足ります。気象庁の火山登山者向け情報です。

この記事は特定の山ではなく、活火山に共通する行動をまとめたものです。「自分が登る山」のいまの噴火警戒レベルは、出発前に上の気象庁の情報で確認してください。行き先が変わったら、そのたびに確認し直します。

山名から具体的に確認したい場合は、気象庁の「噴火警報のページ」(https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#contents=volcano)、または山名ごとの一覧表になっている「各火山のリーフレット」のページ(https://www.data.jma.go.jp/vois/data/filing/level/keikailevel.html)から探すと確実です。噴火警戒レベルは、常時観測火山51火山のうち49火山(令和8年3月現在)で運用されています。

「レベル1だから安全」ではない——御嶽山もレベル1だった

レベルが上がっていないから安全、ではありません。 噴火警戒レベルは「観測されている状態」に基づくもので、前兆をとらえられない噴火(水蒸気噴火など)もあります。2014年の御嶽山噴火が発生したときも、噴火警戒レベルは平常時と同じレベル1でした(出典:内閣府「火山への登山のそなえ」)。

だから、確認とセットでもう1つ。レベル1でも装備は持つ、が現実的な線です。持ち物は5章にまとめました。

防災士から一言

噴火警戒レベルの確認とあわせて、もうひとつだけお願いしたいことがあります。登山届(登山計画書)の提出です。登山届が導入されている火山については、必ず作成して提出しましょう。総務省消防庁は、提出しておくことで「登山者の身に万が一何か起きた際、家族や施設、救助者が早く状況を想定することができます」と説明しています。噴火にかぎらず、遭難したときの捜索・救助が早くなります。

(出典:総務省消防庁「防災危機管理eカレッジ 5.火山の注意点」2026-08-18確認)

登る前チェック(3つ)

  • [ ] 気象庁の火山登山者向け情報で、登る山の噴火警戒レベルを確認した
  • [ ] 登山届を作成し、提出した
  • [ ] ヘルメット・ゴーグル・マスクなどの装備をザックに入れた(→5章のリスト)

2. 噴火の瞬間:屋根の下へ。頭・目・口を守り、収まったら直ちに下山

この章の要点:最初の危険は噴石。山小屋・岩陰など遮蔽物のある場所へ移り、ヘルメット・ゴーグルを着け、口を覆う。沢・谷には向かわない。噴火が収まったら直ちに下山する。

噴火の直後、登山者にとって最初に危険なのは噴石です。内閣府は登山者向けの資料で、噴火に遭遇した際の行動を次のように示しています。

「噴火時は、山小屋や岩陰などに一時避難しましょう。また、ヘルメット・ゴーグルを着用し、マスクや湿らせたタオルなどで口を覆います。」(中略)「噴火が収まったら直ちに下山しましょう。」

——内閣府「火山への登山のそなえ」https://www.bousai.go.jp/kazan/kazan_sonae/index.html(2026-08-17確認)

やること なぜ
山小屋・シェルター・岩陰など、屋根や遮蔽物のある場所へ一時避難する 内閣府の資料が明記する基本行動。噴石は上から降ってくるため屋根の下が有効
ヘルメット・ゴーグルを着用する 同上。噴石・降灰から頭部と目を守る
マスクや湿らせたタオルで口を覆う 同上。火山灰の吸い込みを防ぐ
噴火が収まったら直ちに下山する 同上

あわせて気をつけたいこと

  • 沢・谷・くぼ地には向かわない。泥流(火山泥流)は谷筋や沢沿いを遠方まで流下することがあると気象庁が説明しています(出典:気象庁「火山災害の種類」https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kazan/volsaigai/saigai.html)。「低い場所へ隠れる」と「沢へ下りる」は別物です
  • 写真撮影のために立ち止まらない

📌 一次資料で確認できなかったこと(正直に書きます)

「火口から遠ざかる方向へ動く」「風下を避ける」「噴石は数十秒で届くので様子見はしない」という記述は、今回確認した内閣府・気象庁の一次資料には見当たりませんでした。登山の安全知識として一般に言われている内容ですが、特定の一次資料による裏付けは取れていません(確認できず)。また「火山ガスは重く低い場所にたまる」という説明も、今回参照した気象庁ページ(「知識・解説『火山』」)には該当の記載がなく確認できませんでした。この記事では、一次資料で確認できた行動(上の表)を軸にしています。


3. 灰が降ってきたら:ゴーグルと防塵マスクで目と呼吸を守る

この章の要点:火山灰の実体は細かいガラス・鉱物の粒。国の資料も「屋外ではゴーグルとマスク」としており、屋内に入れない山の上では装備の重要度がさらに上がる。

火山灰は「灰」という名前ですが、実体は細かいガラスや鉱物の粒です。吸い込めば気道を傷めますし、目に入れば角膜を傷つけます。

内閣府のガイドラインには、屋外で行動する場合について次のように書かれています。

「降灰中で視界が低下する等により屋外での行動が危険を伴う場合は、基本的に自宅等の屋内へとどまる。健康被害防止のため、屋外での行動時にはゴーグル及びマスクの着用等の対策が望ましい。呼吸器疾患等の持病を持つ人は特に留意」

——内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン(概要)」(令和7年3月)3ページ 注*2

これは首都圏の住民向けに書かれたものですが、「屋外にいるならゴーグルとマスク」という原則は登山中も同じです。むしろ山では屋内に入れないので、装備の重要度は上がります。原文にあるとおり、呼吸器疾患などの持病がある方は特に注意してください

体の部位ごとに整理すると、守り方はこうなります。

守るもの 装備 ポイント
呼吸 防塵マスク 布マスクでは細かい粒を止めきれません。粉塵用の規格品を選びます
ゴーグル 眼鏡・サングラスでは横から入ります。密閉できるものを
ヘルメット 噴石への備え。登山用でも防災用でも
長袖・長ズボン・手袋 灰は肌を刺します
足元 灰で滑ります。濡れた灰は特に滑りやすくなります

4. 下山してから:電車は微量の灰で止まる。「帰れる」とは限らない

この章の要点:無事に下りても、交通と生活への影響が残る。国の想定では、微量の降灰で鉄道が止まり、雨と3mmの灰で停電が起きうる。「動いていない前提」で予定を組む。

無事に下りても、そこから先に別の問題があります。国は富士山噴火などの大規模な降灰を想定した対策資料を公表しており、降灰量ごとの影響を次のように整理しています(いずれも内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」概要1ページからの引用)。このガイドラインは、内閣府政策統括官(防災担当)が令和7年3月に公表したもので、令和6年7月から開催された検討会(座長:藤井敏嗣 東京大学名誉教授)の検討を踏まえています(出典#3)。

分野 影響
鉄道 微量の降灰で地上路線の運行が停止
道路 乾燥時10cm以上、降雨時3cm以上の降灰で二輪駆動車が通行不能
航空 「火山灰が存在する空域では、航空機は迂回等の措置が必要」
電力 降雨時3mm以上の降灰で碍子(がいし)の絶縁低下による停電
物資 「交通支障が生じると、物資の配送や生活物資入手困難」

つまり、ごくわずかな降灰で電車が止まり、3mmで停電が起きうるということです。「山から下りたら帰れる」とは限りません。

下山後にやること(4つ)

  1. 靴・ザック・衣類の灰を、屋外で落とす(屋内に持ち込むと吸い込みます)
  2. 車のフロントガラスは、乾いた状態でワイパーを動かさない(灰でガラスが傷つきます。水で流してから)
  3. エアコンの外気導入を切る
  4. 公共交通の運行情報を確認する。動いていない前提で、宿泊も選択肢に入れる

5. 持っていくものリスト:基本はヘルメット・ゴーグル・防塵マスクの3点。火山ガス対策マスクは行程と相談

この章の要点:優先するのは、内閣府の資料の基本行動(2章)に対応するヘルメット・ゴーグル・防塵マスクの3点と、肌を守る長袖・手袋。火山ガス対策マスク(約465g)は追加の選択肢で、裏付けがどこまで取れているかも正直に書いた。

登る前に持ち物を整理しておくと、荷物の重さも把握できます。重さは自社取扱商品「登山時噴火対策セット」の商品ページで確認できたものを載せ、確認できなかったものは「確認できず」としています(内閣府「火山への登山のそなえ」の持ち物リストには重さの記載がありませんでした)。

装備 用途 重さの目安 備考
火山灰用マスク(防塵マスク) 呼吸を守る 確認できず(商品ページに重量の記載なし) 予備を含めて複数枚
火山灰対策ゴーグル 目を守る 確認できず(商品ページに重量の記載なし) 密閉タイプ
ヘルメット 噴石から頭を守る 約358g(セット付属の防災用ヘルメット) 折りたたみタイプ(MOVO・別売り)は約415g
手袋・長袖 肌を守る 確認できず
ヘッドライト 降灰で日中でも暗くなります 確認できず
灰を洗い流す/飲む 携帯量は登山日数と行程次第
予備の電池・バッテリー 停電・通信障害に備える 確認できず
火山ガス対策マスク(本体+吸収缶) 火山ガスから呼吸を守る 本体約155g+吸収缶約155g×2個(合計約465g) 出典:噴火.com「登山時噴火対策セット」商品ページ(2026-08-17確認)。位置づけは下の注記参照

火山ガス対策マスクの位置づけ(正直に書きます)

  • 何のための装備か:火山ガスから呼吸を守るための装備です。セットには「火山灰用マスク」とは別の商品として入っており、灰(粒)を防ぐ防塵マスクとは対象が異なります。本体+吸収缶で合計約465gあります(出典:噴火.com「登山時噴火対策セット」商品ページ)
  • 裏付けはどこまで取れているか:2章で引用した内閣府の登山者向け資料が挙げる噴火時の行動は「ヘルメット・ゴーグルを着用し、マスクや湿らせたタオルなどで口を覆う」で、この引用の中に火山ガス対策マスクは登場しません。また「火山ガスは低い場所にたまる」という通説も、2章に書いたとおり一次資料で確認できていません。本記事の出典の範囲では、火山ガス対策マスクが必要になる場面を裏付ける記述を示せていません(確認できず)
  • どう考えればよいか:優先順位は、内閣府の資料に裏付けのあるヘルメット・ゴーグル・防塵マスクの3点が先です。火山ガス対策マスクは約465gの追加になるため、荷物の重さと行程に応じて判断してください。持たない選択も含めて、ご自身の計画に合わせて構いません

噴火防災の専門店・噴火.com では、この用途に絞ったセット・単品を扱っています(すべて2026-08-17にページの存在と価格を確認)。

単品でそろえることもできますし、山の装備は軽さが優先なので、必要なものだけを選ぶ形でも構いません。セットは「何を選べばいいか分からない」方向けです。


まとめ:3つだけ覚える

  1. 登る前に噴火警戒レベルを1回見る(気象庁の火山登山者向け情報)
  2. その瞬間は、屋根の下へ。なければリュックで頭を守って伏せる。沢と谷には行かない
  3. 灰が降ったら、ゴーグルとマスク。下山後は交通が止まっている前提で動く


出典

  1. 内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン(概要)」令和7年3月
    https://www.bousai.go.jp/kazan/shiryo/pdf/gaiyou.pdf
  2. 内閣府「首都圏における広域降灰対策検討会」
    https://www.bousai.go.jp/kazan/shutokenkouhai/index.html
  3. 内閣府「広域降灰対策ガイドライン公表について」令和7年3月28日
    https://www.bousai.go.jp/pdf/250328_guideline.pdf
  4. 気象庁「噴火警戒レベルとは」
    https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kazan/level_toha/level_toha.html
  5. 気象庁「降灰予報の説明」
    https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kazan/qvaf/qvaf_guide.html
  6. 内閣府「火山防災対策(資料)」
    https://www.bousai.go.jp/kazan/shiryo/index.html
  7. 内閣府「火山への登山のそなえ」
    https://www.bousai.go.jp/kazan/kazan_sonae/index.html
  8. 気象庁「火山災害の種類」
    https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kazan/volsaigai/saigai.html
  9. 内閣府防災「特集① 火山防災を考える ~2014年御嶽山噴火から10年~」
    https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/r06/110/special_01.html
  10. 噴火.com「登山時噴火対策セット」商品ページ
    https://hun-ka.com/products/setclimb
  11. 総務省消防庁「防災危機管理eカレッジ 5.火山の注意点」
    https://www.fdma.go.jp/relocation/e-college/cat63/cat40/cat37/5-4.html
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