「富士山が噴火したら、家では何をすればいいですか」— 防災士に12問聞きました

富士山が噴火したら、火山灰が降ってくるらしい。マスクとゴーグルが要るらしい——そこまでは、ニュースや特集でずいぶん知られるようになりました。では実際のところ、家では何をすればいいのでしょうか。

今回は、噴火防災の専門店「噴火.com」の店主で、防災士・災害備蓄管理士の上地忍に、お客様からよくいただく疑問をもとにした12の質問をぶつけました。答えの中で繰り返し出てきたのは、「備えは後手になりがちで、噴火が起きてからでは、もう手に入らない」という現実です。

公的資料からの補足は、回答の下に「※」で分けて添えています。


第1部 まず知っておきたいこと

Q1. 火山灰の何が、そんなに怖いのですか?

火山灰は「灰」という名前ですが、実際は小さなガラスの破片です。そう考えると、目や呼吸器官(鼻・のど・肺)に入ることがどれだけ怖いか、想像がつくと思います。健康な大人でも影響は出ますし、お子さん・ご高齢の方・看護が必要な状態の方であれば、深刻な問題になる可能性があります。マスクやゴーグルは、必ずしも高機能なものでなくていいんです。まず「必ず着けて、目と呼吸器官を守る」こと。これが基本です。

それともうひとつ。怖いと言えるかは分かりませんが——火山灰は、雪と違って溶けてくれません。降ったあとの掃除や処理がとても大変なんです。桜島のある鹿児島の方は、いつもこれに悩まされているそうです。ベランダにも降るし、洗濯物も干せない。屋根や庭の灰も掃除しなければならない。

しかも火山灰は水に流すと固まってしまうので、集めた灰の処分には注意が要ります。おそらく灰の処分方法は、ほとんどの人が意識していないと思います(詳しくはQ9で)。

※ 補足(公的資料から):気象庁の定義では、火山灰は噴火で火口から放出される固形物のうち直径2mm未満のもので、ガラス質の粒子や鉱物の結晶片からできた硬く角ばった粒です[#1]。大量に吸い込むと咳や鼻・喉の不快感が出ることがあり、慢性の肺の病気や重い心臓の病気がある方は症状悪化のおそれ。目では痛みを伴う角膜障害や結膜炎を起こす場合があり、灰が目に入ったら、こすらずに水で洗い流してください[#2]。

Q2. 首都圏は火口から遠いので、関係ないのでは?

最近はニュースや番組の特集で首都圏の被害が伝えられているので、「関係ない」と思う人は少なくなってきた印象です。防災に関心がない人は、火口から遠いか近いかに関係なく関心がない、というのが正直な実感ですが……。

富士山噴火の怖さを伝えるとすれば定番ですが、約300年前(1707年)の宝永大噴火のとき、火山灰は江戸の町まで飛んでいます。現在の首都圏の降灰予測も、この噴火の記録をもとに立てられているんです。

それから、政府のシミュレーションでは、風向きによっては茨城県・栃木県・群馬県にもある程度の火山灰が届くとされています。そうであるなら、首都圏はかなりの確率で火山灰が届くと考えてよいと思います。

※ 補足(公的資料から):宝永噴火は1707年12月16日に始まり16日間続き、川崎で灰の厚さが5cmに達した記録があります[#3]。しかも一様には収まらず、クライマックスは最初の3日間ほどで、いったん静かになったあと9日目頃に再び激しくなりました[#4]。東京都の指針では、同規模の噴火で西南西の風の場合、区部の大部分で2〜10cm程度以上の降灰という試算があります[#7]。茨城・栃木・群馬への影響は内閣府の資料に記載があります[#6]。内閣府は2025年3月に「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」を公表し(対象は1都8県)、降灰30cm以上(雨が降った場合)の地域は原則避難という考え方を示しています[#5]。

Q3. お客様が一番誤解している、と感じることは何ですか?

誤解というより——噴火に限らず地震対策なども同じですが——備えが後手になることです。いざ噴火が発生したときには、もう必要な商品は手に入らないと考えたほうがいい。理由は3つあります。

  1. 注文が殺到して、店の在庫があっという間に消える(ECサイト〔インターネット上のお店〕でも実店舗でも同じです)
  2. メーカー側でも急に在庫がなくなる
  3. 火山灰で物流に影響が出て、商品が届かない

実際に当店では、噴火の発生ではなく「噴火が発生するかも」というニュースが出ただけで、かなり注文が来て在庫がなくなり、取り寄せに時間がかかることが起きています。新型コロナのニュースが出たあと、しばらくマスクが手に入らなかったのと同じ現象です。災害が来てからの備えでは遅い。何事も、早めの準備がよいです。

会社やお店からは、誤解というより「何を対策していいのか分からない」という声を感じます。人体についてはマスクとゴーグルで構いません。ただ、噴火は他の災害と違って火山灰が長期間降り続くので、時間が経つにつれて被害が増えていきます。車が灰を吸い込んで動かなくなる、積もった灰が雨に濡れるとかなりの重さになって倒れるものが出る。物流の回復が遅れれば、取引の停滞・延期・キャンセルが出て、事業活動に重大な支障が出る可能性もあります。これは防災グッズの用意とは別の、BCP(事業継続計画)の問題です。

※ 会社としての備え(何を・何人分・どれだけ)は、法人向けに1本の記事にまとめています。

詳しくはこちら:会社の火山灰対策・法人向け備蓄品リスト


第2部 体を守る

Q4. 普通のマスクやゴーグルでは、ダメですか?

正直にお伝えすると、通常のサージカルマスク(不織布マスク)でも、かなりの部分は防げます。降灰が多くない場面なら、サージカルマスクで対応することもできるんです。

ただ、火山灰は上から降り続けます。サージカルマスクだと、マスクの上や横から火山灰が入ってくる恐れがある。だから灰が濃い場面では、横からも入ってきにくい構造の高機能マスクをお勧めしています。要は降灰の量で使い分ける、ということです。

ゴーグルには、意外な落とし穴があります。多くのゴーグルには、内側の曇り止めのために通気口が付いていて、その多くがゴーグルの上のほうにあるんです。すると、上から降ってくる火山灰がそこから入ってくる恐れがある。もうひとつ、ゴーグルはメガネと併用できないものがあります。火山灰が降っているときはコンタクトレンズは危険なのでメガネに替えたほうがいいのですが、するとその上からゴーグルがつけられなくなることがある。

そこで噴火.comでは、通気口がなく・曇り止めがされていて・メガネの上からつけられるゴーグルを選んでいます。子ども用でこの条件に合うものはなかなか見つからないのですが、大人用ならあります。

※ 補足(公的資料から):防塵マスクには国家検定の規格があり、「DS2」は0.3マイクロメートル(1mmの3000分の1程度)の試験粒子を95.0%以上捕集する性能が確認されたものです[#12]。国のガイドラインも家庭の備蓄品の例に防塵マスクを挙げています(1人1日あたり1個。屋外作業をしない人は通常のマスクで代替も考えられる、という注記つき)[#5]。コンタクトレンズへの注意は熊本県の資料にも記載があります[#2]。

詳しくはこちら:火山灰から体を守るマスク一覧ゴーグル一覧

Q5. 子どもや高齢者にも、高機能マスクを使わせるべきですか?

いえ、むしろ逆です。マスクは高機能であるほど息がしにくくなります。外から火山灰やその他の物質が入らないようにすればするほど、当然、呼吸もしにくくなるので。

呼吸の機能が弱い方には負担が大きいため、当店では、お子さんやご高齢の方に高機能の防塵マスクをお勧めしていません。通常のサージカルマスクで構いませんので、火山灰が降っているときは可能な限り外に出ない。これがいちばんの対策です。

なお、当店で扱っているハイグレード火山灰対策マスクは、内側にインナーフレームが入って口元に空間ができる構造で、高機能マスクとしては呼吸がしやすい商品です。私自身が着用して確かめた実感でもあります。それでも、お子さん・ご高齢の方には「外に出ない」ことを先にお勧めします。

※ インナーフレームの構造は商品ページに記載があります[#15]。

商品ページはこちら:日本製 ハイグレード火山灰用マスク

Q6. 家族4人だと、マスクは何枚あればいいですか?

国の目安は、防塵マスク1人1日あたり1個です。1週間分を単純に掛け算すると、7日×4人で28枚。ただ、家族の中には外出しない人や、外出しない日もありますよね。それを考慮して、家族4人なら20枚を目安に備蓄するとよい、とお伝えしています。

それと、降灰が多くないのであれば、強力な防塵マスクではなく、通常のサージカルマスクで対応することもできます(Q4の「使い分け」です)。

※ 補足(公的資料から):「1人1日1個」と、備蓄は「1週間分。可能であればそれ以上」が国のガイドラインの目安です[#5]。ただし「1週間で終わる」という意味ではありません。宝永噴火は16日間続き[#3]、最初の3日間ほどが最も激しく、いったん静かになったあと9日目頃に再び激しくなった記録があります[#4]。静かになっても「もう終わった」とは考えないでください。なお「20枚」は上地忍(防災士・備蓄管理士)個人の目安で、国の数字ではありません。


第3部 家・車・こもる生活

Q7. 家の対策は、何から手をつければいいですか?

必ずやるべきなのは、窓から火山灰が入らないようにする対策です。窓の目張り(隙間をテープなどで塞ぐこと)をする、換気扇にフィルターをつける。灰は「家に入れない」が基本です。

それから、洗濯物は外に干せなくなるので、家の中で干す準備をしておくこと。外から帰ったときに衣服についた火山灰を落とせるように、玄関にほこり落としのマットや、灰のついた服を入れる袋を用意しておくのもいいですね。灰を家に持ち込まない工夫です。

意外かもしれませんが、火山灰は重いので、室内に入り込んでもすぐ床に落ちます。だから空気清浄機はあまり役に立たないと考えています。空気中から取り除くより、そもそも入れない対策が先です。

床に落ちた灰は、少量なら掃除機で吸って掃除できます。ただしフィルターがすごい早さで詰まるので、早めの交換が必要です。交換用フィルターは多めに用意しておいてください。

※ 補足(公的資料から):東京都も「窓やドアをしっかり閉め、タオルなどで隙間を塞ぐ」「エアコンの室外機にカバーをかける」ことを勧めています[#9]。特別な道具はほとんど要りません。なお空気清浄機については公的資料に記載が見つかっていないため、上の発言は防災士としての見解です。

Q8. 車でやってはいけないことは、何ですか?

一番やってしまいがちな失敗は、ワイパーで火山灰を落とそうとすることです。火山灰は小さなガラスの破片なので、ワイパーで拭くとガラスに傷がつきます。同じように、ボディについた火山灰も、乱暴に拭き取ると傷をつける原因になります。

車についた火山灰を落とすときは、まず水で流す。それから洗浄液をつけて、柔らかいスポンジで丁寧に拭いていく。この順番です。車の中に入った火山灰は、掃除機で吸引してください。

運転するときの注意もあります。火山灰が積もった道路は、大変滑りやすくなります。スピードを出さず、注意して走行してください。

※ 補足(公的資料から):火山灰がガラス質の粒であることは気象庁の定義どおりです[#1]。気象庁の降灰量の目安では、やや多量(0.1〜1mm)で徐行運転、多量(1mm以上)で運転を控えるとされています[#11]。東京都の資料では、乾いた灰で10cm以上、雨を含んだ灰で3cm以上積もると二輪駆動車は走行不能とされています[#8]。降灰が多い日は「乗らない」が最善です。

Q9. 積もった灰の掃除と処分は、どうすればいいですか?

これは、おそらくほとんどの方が意識していない部分です。実際にやってみて分かることを3つお伝えします。

1つ目。灰は少量なら掃除機で吸えますが、フィルターがすごい速さで詰まります。交換用フィルターを多めに用意して、早めに替えてください。

2つ目。車の中に入った灰も、掃除機で吸引します(ワイパーや乾拭きは傷のもとです。Q8で話したとおりです)。

3つ目。ここが一番大事ですが、火山灰は水に濡れると固まってしまいます。大量の火山灰が下水道に流れると、下水道が詰まる可能性があります。

※ 捨て方について(公的資料から):東京都は「排水溝に流さないようにしましょう」と明記しています[#9]。掃除の基本は「乾いたまま集めて、袋に入れて、自治体のルールで出す」です。そして灰の出し方のルールは自治体ごとに違います。長年桜島の灰と付き合ってきた鹿児島の例を挙げると——鹿児島市では「克灰袋(こくはいぶくろ)」という灰専用の袋を家庭に配布しており、灰を詰めて「宅地内降灰指定置場」に出すと市が収集します(専用袋がない場合はレジ袋の2枚重ねでも可)[#13]。霧島市では、集めた灰から異物を取り除き、集灰袋に入れて、もえないごみの収集日に指定の収集所へ出します[#14]。これはあくまで鹿児島の例です。首都圏で実際に降灰があった場合は、お住まいの自治体の案内(ホームページ・広報)を必ず確認してください。

Q10. 家にこもるとき、見落とされがちな備えはありますか?

まず、物流です。自宅にとどまる場合、火山灰の影響で物流が停止または遅延している可能性が高い。灰が降っている間は、飛行機も電車も止まり、道路にも制限がかかると考えられるからです。物流は止まらないまでも、大幅な遅延が予想されます。だから毎日の生活用品は、2〜3週間買い物に行かなくても問題ないストックがあると安心です。

次に、生活インフラです。電気・ガス・水道の設備は、通常、電気で稼働しています。火山灰が多く降って設備がショートしたり、電線が灰の重みで断線したりすれば、一時的にインフラが止まる期間も想定されます。「電気・ガス・水道が最低1日から3日程度止まっても大丈夫」な備えをしておくと安心です。

それと、非常用トイレです。火山灰は水に濡れると固まるため、大量に下水道へ流れると詰まって、トイレや排水が一時的に使えなくなる可能性があります。非常用トイレは最低3日分、できれば1週間分。噴火対策だけでなく、地震などあらゆる災害対策やアウトドアのアイテムとしても使えるので、準備しておいて後悔することは少ないですよ。

※ 補足(公的資料から):国の方針では、降灰30cm未満なら自宅にとどまるのが基本です(30cm以上〔降雨時〕は原則避難)[#5]。交通は、鉄道は微量の灰でも運行停止のおそれがあり、道路にも走行の制限が生じるとされています[#8]。停電には参考になる記録があり、1990年の阿蘇山の噴火では、湿った灰が電気設備に付着してショートし約3,700戸が停電しました(灰の厚さ約1mmの地域と停電地域が一致)。一方で同じ内閣府の資料には「日本においては降灰時に大規模な供給支障を引き起こした例はない」という注記もあります[#10]。短時間・局地的な停電はありうるが、大停電が続くと決まっているわけではない——このくらいの距離感で備えるのが適切です。なお「2〜3週間分」「非常用トイレ3日〜1週間分」は上地忍個人の目安、「備蓄1週間分以上」が国の目安です[#5]。


第4部 その日が来たら

Q11. 噴火警戒レベルが3に上がった日、何をすればいいですか?

(※噴火警戒レベル=気象庁が火山ごとに5段階で発表する、警戒の目安です)

3つお伝えします。

1つ目、パニックで必要以上に買い込まないこと。 レベルが3に上がったら、おそらく最初に起こるのはパニックによる衝動買いです。噴火が起きていないにもかかわらず、スーパーやコンビニの棚からいろんなものがなくなることが予想されます。そのときに慌てて行動して、いろいろ買い込んでしまうことのないように、冷静でいましょう。一番よいのは、日ごろから備えをしておくことです。

2つ目、移動の予定がある人は「滞在が延びる前提」の備えを。 実際に噴火が起きた場合、飛行機や電車が止まり、道路の使用制限も起きることが考えられます。移動中に噴火が発生すると、しばらく首都圏へ戻って来られない可能性もある。宿泊の備えや、多めの現金・クレジットカードなど、想定よりも滞在が延びた場合の支払いの準備をしておきましょう。

3つ目、噴火発生時の行動を家族で話し合っておくこと。 もし富士山が噴火した場合、学校はどうする方針か、職場の方針はどうかなど、家族で情報を共有しておきます。噴火発生直後にすぐ自宅へ帰れるのか、降灰の期間中はリモートでの勤務や授業になるのか、といったことですね。先ほど申し上げたように、出張や遠出の予定がある場合は、あらかじめ行動予定を家族に共有しておきましょう。

最後に、ひとつだけ。先ほど「パニックで衝動買いしないように」と申し上げましたが、備えが足りなければ、どうしてもあわてて不足分を買い出しに行かなければならなくなります。そんなことにならないよう、この記事をご覧になりましたら、ぜひ今日から少しずつでも備えを始めてください。

※ 補足(公的資料から):交通への影響は東京都の資料にも記載があり、鉄道は微量の降灰でも運行停止のおそれ、道路も降灰量に応じて走行に支障が出るとされています[#8]。

富士山に登る方・富士五湖方面へ出かける方の備えは、別の記事で「登る前の確認」から「下山後」まで解説しています。

詳しくはこちら:登山中に噴火が起きたら

おわりに

Q12. 噴火対策の心掛けについて、最後に一言お願いします。

怖がる必要はありません。ただ、噴火が起きてからでは手に入らないものがある——それだけを覚えておいて、今日できる小さなことから、備えを始めてください。

著者について

上地忍(日本防災士機構認定 防災士・災害備蓄管理士)

噴火防災の専門店「噴火.com」店主。防災用品のECサイト(インターネット上のお店)を一人で運営しながら、火山噴火と降灰への備えについての記事を自分で書いています。この記事の内容は、公的資料(気象庁・内閣府・東京都など。出典は文中に明記)と、専門店としてお客様の相談を受けてきた経験にもとづいています。


出典

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